相似地震によるプレート運動モニタリング
関東地方:フィリピン海プレートの相似地震
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近年,プレート沈み込み帯で波形の相似性の極めて高い地震(相似地震)が見出されてきました。
プレート境界上で相互に固着しやすい領域はアスペリティと呼ばれ,
アスペリティでは地震が繰り返し発生すると考えられています。
巨大なアスペリティでは100∼200年間隔で1923年関東地震 (M7.9) のようなM8クラスの巨大地震が発生してきました。
一方,小さなアスペリティでは小さな地震が繰り返し発生すると考えられ,
相似地震はこのような小さなアスペリティにおける破壊の繰り返しであることが分かってきました。
すなわち,相似地震はプレート境界型巨大地震のミニチュア版と見なすことができます。
このような相似地震の活動はプレートの運動と密接な関係を持ち,
プレート境界に埋め込まれたセンサーとしてプレート運動のモニタリングへの活用が期待されます。
関東地方では南に位置する相模トラフからフィリピン海プレートが北西方向に沈み込み1923年関東地震 (M7.9)
などの巨大地震が発生してきました(地震調査研究推進本部, 2004; Sato et al., 2005)。
また首都圏直下ではM7クラスの地震の切迫性が指摘されています(地震調査研究推進本部,2004)。
このためその運動や性状の把握は重要な課題です。
防災科学技術研究所では,
関東・東海地域に整備した地殻活動観測網により蓄積された過去約24年間のデジタル波形データを用いて相似地震の解析を行い,
関東地方のフィリピン海プレート上面に多数の相似地震が分布することを明らかにしました。
さらに,その特徴を詳しく調べ関東地方東部の相似地震はプレート運動の指標として活用できることを明らかにし,
これをもとにプレート間すべりの起きる面としてのフィリピン海プレートの形状モデルを構築しました。
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█ 相似地震の分布 |
図1は得られた相似地震の分布を示します。関東地方東部で多数の相似地震が見出されました。
関東地方西部およびフィリピン海プレート内部でも相似地震が見られますがごくわずかです。
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図1: フィリピン海プレートに関連した相似地震の分布。
フィリピン海プレート上面付近の相似地震を赤丸で,プレート内部の相似地震を緑丸で,
通常の地震を+印で示す。太平洋プレートより浅い地震のみ示した。
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█ 相似地震の波形・すべり履歴 |
図2は茨城県南西部に位置する相似地震のグループの波形例を示します。
このように波形はお互いにきわめてよく似ています。
このグループにおけるすべり履歴を,
横軸を時間とし縦軸を地震の規模から推定したすべり履歴として示すと図3のようになります。
段差の高さがほぼ地震の規模を表します。
これより,このグループでは相似地震が過去24年間にわたってほぼ一定の間隔・規模で繰り返してきたことが分かります。
また,このすべり履歴をもとに推定した平均すべり速度はグローバルなプレート運動モデル
(Seno et al., 1996)から期待される値と良く一致します。
関東平野東部の相似地震はほぼすべて期待されるすべり速度と25 ∼ 126%の範囲で一致しました。
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図2: 茨城県南西部の相似地震グループの下総観測点(図1, SHM)における上下動成分(UD)の波形例。
震源時およびMを左に,P・S の到着時刻を上部に示す。図右側の数字は最大振幅(nm/s)を示す。
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図3: 茨城県南西部の相似地震グループのすべり履歴。
プレート運動モデルから期待されるすべり速度を赤線で示す。
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█ プレート運動の指標としての相似地震 |
図4に図1の N-S に沿った鉛直断面を示します。
前述したように関東地方東部の相似地震は波形の類似性がきわめて高く,
ほぼ一定の規模・間隔で繰り返すことから,
プレート境界上に分布した微小なアスペリティにおける破壊の繰り返しと考えられます。
フィリピン海プレートの形状について様々なモデルが提案されていますが,
我々は相似地震のこのような特徴から相似地震が,
フィリピン海プレート上面のプレート間すべりの起きる面を表すと考えています。
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図4: 図1のN-Sに沿った鉛直断面。相似地震を赤丸で示す。
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█ プレート間すべりの起きる面としてのプレート形状モデル
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関東地方東部の相似地震がプレートの運動を表すことが分かりましたので,
これをもとにプレート間すべりの起きる面としてのプレート形状モデルを構築しました。
得られたモデルを等深度線として図5に示します。
房総半島の東海岸付近は観測網の端に相当するため詳細な速度構造の推定は困難で,
そのため高い信頼度でのプレート形状の推定は困難でしたが,
相似地震がほぼ一定の間隔・規模で繰り返し発生するという特徴を元に,
高い信頼度でプレート境界の存在を把握することができました。
また,銚子付近では地震の発生数が少なく,
地震の分布もまばらなためフィリピン海プレートの境界の位置は不明でしたが相似地震を元に,
その位置を特定することが出来ました。
この研究成果は,2006年にTectonophysics誌に掲載されました。
Kimura, H., K. Kasahara, T. Igarashi, and N. Hirata, 2006,
Repeating earthquake activities associated with the Philippine Sea plate subduction in the Kanto district,
central Japan: A new plate configuration revealed by interplate aseismic slips, Tectonophysics, 417, 101-118.
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図5:
相似地震の分布をもとに推定したフィリピン海プレート上面のプレート間すべりの起きる面としてのプレート形状モデル。
数字は深さ(km)を表す。
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█ 関東地方のフィリピン海プレートのアスペリティ分布 |
以上の結果をもとに関東地方のフィリピン海プレート上のアスペリティの分布を模式的に示すと図6のようになります。
浅部では1923年関東地震を起こした巨大なアスペリティが存在し,
深部では相似地震を起こす微小なアスペリティが分布します。
深部の微小なアスペリティではフィリピン海プレートの運動に伴って相似地震が定常的に発生すると考えられます。
これらの相似地震はプレートの運動を表しプレート運動のモニタリングへの活用が期待されます。
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図6: 関東地方のフィリピン海プレート上の相似地震および巨大地震のアスペリティ分布の模式図。
左図の破線で示した枠内について,
フィリピン海プレート上のアスペリティの分布およびプレート形状の模式図を右図の鳥瞰図に重ねて示した。
1923年関東地震の断層面は Sato et al.
(2005) によるすべりの大きい領域を元に作成した。
相似地震を赤いシンボルで,関東地方に対するフィリピン海プレートの運動方向を橙色の矢印で示す。
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<参考文献>
- 地震調査研究推進本部, 2004, 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について。
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Sato, H., Hirata, N., Koketsu, K., Okaya, D., Abe, S., Kobayashi, R., Matsubara, M.,
Iwasaki, T., Ito, T., Ikawa, T., Kawanaka, T., Kasahara, K., Harder, S., 2005.
Earthquake source fault beneath Tokyo. Science 309, 462-464.
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Seno, T., Sakurai, S., Stein, S., 1996.
Can the Okhotsk plate be discriminated from the North American plate?
J. Geophys. Res. 101, 11305-11315.
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