10.2 地殻変動連続観測

 旧来技術による測地測量は測定に大きな労力を要し, 測定の繰り返しには数年から数ヶ月を要するのが普通でした. このため,地殻変動の進行状況を高い時間分解能で知ることは不可能であり, また,地表での測定は気象条件等に左右されることから,測定精度にも限界がありました.

 これらの弱点を補うため,歪計や傾斜計といった計器を用いて連続的に高感度の地殻変動観測を実施することが, 古くより行われてきました. これらの観測では,月や太陽の引力によって固体地球部分が周期的に変形する 地球潮汐の現象まで捉えることができます. ただ,その信号の大きさは10-7程度の振幅であり, たとえば10mの長さに対しては数ミクロン(μm)ほどの変形でしかありません. しかも,これを精密に捉えるためには,さらに1〜2桁高い測定分解能が必要となります.
 通常の物質の熱膨張係数は10-3〜10-4/℃の値であることを考えれば, このような観測を温度変化の大きな地表で実施することは不可能です. このため,地殻変動連続観測用の計器は,温度の安定した横坑の奥や深い井戸の底部に設置されるのが常です.

=== 図10.3 伸縮計の3方式.(A)棒式,(B)ワイヤ式,(C)レーザ方式 ===
棒式,ワイヤ式,およびレーザ方式の伸縮計
 横坑の内部に設置される代表的な地殻変動連続観測計器としては,伸縮計と水管傾斜計があります.伸縮計は,文字通り2点間の距離 L の伸び縮みL を測定して,線歪L /L を求めるものです.L が長いほど歪の測定感度は高くなりますが,通常20〜30mの長さの計器が用いられます. 伸び縮みを測定する方式としては, 図10.3に示す3通りがあります.

 (A)は剛体とみなせる棒や管の一端を台座に固定し(固定端), その他端ともう一方の台座(自由端)との間の微小な距離変化をセンサーで捉える方式です. 棒や管の材質としては,温度膨張係数の小さな溶融石英やインバール等が用いられますが, その重量は相当なものになるため,1〜2mごとに棒や管を支える支持機構が取り付けられます.
 (B)は2つの台座の間にワイヤを張り,この2点間の距離変化を器械的に拡大して記録する方式です. 簡便に設置でき,高感度にすることが可能ですが,ワイヤの伸びによるドリフトが存在するため, 長期的な安定性には欠けています.
 (C)は2つの台座間の距離変化をレーザ光の干渉により検出する方式です. 原理的にはもっともすぐれていますが,精密な測定を行うためには発振周波数の安定化や光路の真空化が求められ, 装置が複雑になるのが欠点です. また,レーザ光源の寿命のために,やはり長期間の連続観測には向きません.

 結局,現在では(A)の方式が標準的なものとなっており,実際の観測では, このような伸縮計を3つの異なる方向に3本設置するのが普通です. これは,地表面の水平面内での変形が2次元テンソルで表わされ,これを記述するためには, 2つの直交する方向の伸縮量と,その直交2方向がなす角の変化量との3つを知る必要があるためです. 伸縮計による観測は,主として大学グループにより全国の約50地点で実施されています.

=== 図10.4 水管傾斜計および振子式傾斜計の原理 ===
水管傾斜計および振子式傾斜計の原理
 次に,水管傾斜計は,図10.4の左側に示すように,L だけ離れた2点の台座上に水の入った容器を置き,両者をチューブで連接したものです.地面が傾くと両端の水位が変化するため,その変化量h1,h2を目視あるいは自動計測によって測定することにより,2点間の傾斜を(h2−h1)/L として求めることができます.この方式では,たとえわずかな水漏れがあったとしても,その影響は相殺されるという利点があります.
 水位を自動計測する手段としては,フロートを浮かべてその器械的変位をセンサーで捉えるのが一般的ですが, 超音波を用いる方法や,金属板との間の電気容量を測定する方法等の試みがなされています. なお,地表面の傾斜はベクトル量であるため,水管傾斜計は2つの異なる方向に2本設置するのが普通です. このような観測は,主として大学グループにより全国の約50地点で実施されています.

 以上に述べた,伸縮計や水管傾斜計を用いた地殻変動連続観測は,横坑内での観測が前提となっています. しかし,横坑はどこにでも掘削できるわけではなく, また,一般に地表付近は降雨や地下水の影響によるノイズが大きいことが知られています. このため,最近では,深い観測用の井戸を掘削して, その底部に歪計や傾斜計を設置することが多くなされるようになってきました. ボアホールの深さとしては,通常100〜300m程度が普通です.

=== 図10.5 体積歪計の設置状況(左)およびセンサー部(右)(Sacks et al.,1971, Pap.Met.Geophys,22より) ===
体積歪計の設置状況およびセンサー部
 ボアホール内に設置する方式の歪計として現在よく使用されているものには,いくつかの種類があります. 「サックス・エバートソン式体積歪計」は,シリコンオイルを満たした直径約11cm, 長さ約3mの円筒型容器を孔底に埋設し,周辺の岩盤の膨張・収縮による円筒型容器の体積変化を, 容器にとりつけられた細いパイプ内のオイル液面の位置変化として拡大検出する方式です (図10.5). この型の体積歪計は,気象庁により関東・東海地域の約30ヶ所に設置されているほか, 大学グループが北海道と東北地域の約15ヶ所に設置しています.

 上記の体積歪計は,膨張か収縮かという歪の1成分しか捉えることができず, 応力の働く向きの検知や,地震の発生に関連する「ずり歪」の測定はできません. この問題を解決するため,シリコンオイルを入れた容器の形状を,円形ではなく, 力の加わる方向によって応答の異なる形状に変更し, これを3つ組み合わせた形の「坂田式三成分歪計」が考案されました. このほか,ボアホールの孔径変化そのものを3方向で測定する「グラドウィン式三成分歪計」や, この孔径変化を器械的に30〜40倍拡大して変位センサーで捉える「石井式三成分歪計」などが開発されています.
 なお,掘削コストの高いボアホールを有効に活用するため, これらの歪計に傾斜計や地震計などを組み合わせた複合型ボアホール観測装置も製作されています. このようなボアホール式三成分歪計による観測は,産総研が西日本の27ヶ所,防災科研が関東東海地域の9ヶ所, 気象庁が東海地方の9ヶ所,大学グループが全国の17ヶ所に設置するなど,全国の63地点で実施されています.



 一方,ボアホール内で用いられる傾斜計としては, 図10.4の右側に示すような原理によって, 振子のつりあい位置のずれを計測する振子型傾斜計が一般的に用いられます. これは,原理的には図9.1で示した水平動地震計と 全く同一であり,着目する地面の動きが異なるのみです. ただ,傾斜計の場合は振り子の零点からのずれがごく僅かな量であるため, 実際の計測では,力平衡型の振り子を用いた電気計測を行うなどの工夫がなされています。
 このようなボアホール式傾斜計は,防災科研が関東・東海地域に38ヶ所,産総研が南海地域に17ヶ所, 大学グループが全国の26ヶ所に設置しているほか, 前項に述べた約760ヶ所の基盤的高感度地震観測施設(Hi-net)にも地震計と一緒に傾斜計が試験設置されています.

=== 図10.6 我が国における地殻変動連続観測施設の分布(2013年3月現在,地震調査研究推進本部調べ) ===
我が国における歪連続観測施設の分布



=== 図10.7 地殻変動連続観測による代表的記録例(1988年1月の静岡県岡部観測点における傾斜計南北成分) ===
地殻変動連続観測による代表的記録例
 以上に述べたような歪計や傾斜計によってとらえられた地殻変動の連続記録の代表的な例を 図10.7に示します。 ここには1ヶ月間の変動が示されており、縦軸の10-6という量は、 1km先の地面が1mm動くという,ごくわずかな変化に相当しています。

 ゆっくりとした長期的な変動に乗った規則的な動きには1日に2回山と谷があり、 これは月や太陽の引力によって生じる「地球潮汐」という現象です。 海岸で見られる満潮や干潮は、海水が月や太陽に引っ張られて生じますが、 地球の固い部分も引力の作用を受けているわけです。 全体の振幅が大きくなるところは、月と太陽の影響が重なり合う大潮(満月や新月の時期)に相当し、 小さくなるところは、お互いの影響が打ち消し合う小潮(上弦や下弦の時期)に相当しています。

 上の図に見られるとおり,地球潮汐の振幅は10-7の桁程度であり,大変に小さな量です. しかし,ある場所が地震を起こすエネルギーを臨界状態まで蓄えていた場合には, この地球潮汐によるわずかなひずみが最後の「引き金」を引くという可能性があり, それを支持する研究発表もなされています.
 ただし,「満月や新月(あるいは惑星直列など同様の天文学的現象)になると地震が起こる」というのは 正しい言い方ではありません. あくまで,長い時間をかけて歪エネルギーが蓄えられ臨界状態に達しているという前提条件が必要であり, その蓄えられたひずみこそが地震を発生させる主因なのです.



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