Topics 2009年8月11日 駿河湾の地震 ✏ 2009/8/11 掲載
概要 現在の地震活動 詳細な震源分布 速度構造 過去の地震活動状況 CMT解 強震動 震源過程 プレート間地震への影響

█ 2009年駿河湾の地震がプレート間地震の発生に及ぼす影響の評価

1.はじめに

   独立行政法人防災科学技術研究所(理事長 岡田義光。以下,防災科研)は, 防災科研が整備・運用している三種類の地震観測網 (K-NET/KiK-net(強震観測網)Hi-net(高感度地震観測網) 及び F-net(広帯域地震観測網) )の地震観測記録を用いて, 2009年8月11日に発生した駿河湾の地震が,想定される東海地震の震源域に及ぼした影響の評価を行いました。
   本成果は2010年6月20日(ロンドン現地時間18:00) に英国Nature Publishing Groupの発行するNature Geoscience誌に オンライン掲載されました。

◇ポイント◇
  1. Hi-netデータを用いて駿河湾の地震の余震の発生位置を高い精度で推定し, この地震は,面の向きが大きく異なる複数の震源断層で発生したことを明らかにしました。
  2. 余震の並び及びF-netデータの解析に基づき,2枚の面で駿河湾の地震の震源断層を表現し, K-NET 及び KiK-net で観測された近地強震波形データを用いてこの震源断層のどこがどのようにすべったかを明らかにしました。
  3. 駿河湾の地震によって,プレート境界にかかる力(正確には応力)がどのように変化したかを評価し, プレートが強く固着していると考えられる領域(アスペリティ)にかかる力は, 想定東海地震ですべる方向に増加したことを明らかにしました。
  4. 想定東海地震発生時にすべる方向の力が増加していた領域では,Hi-netデータの分析により, 駿河湾の地震後にプレート間地震の数が急激に増加し,時間と共に徐々に減少していたことを明らかにしました。


2.背景

   駿河湾から四国沖にかけての太平洋側では,100〜200年間隔でマグニチュード8級の巨大地震が繰り返し発生し, 大きな被害をもたらしてきました(図1)。 この領域では,海側のフィリピン海プレートが日本列島に向かって進行し, 南海―駿河トラフから陸側のユーラシアプレートの下にもぐり込んでいます。 プレート境界は,普段は部分的に固着して(くっついて)いますが,プレートの継続的なもぐり込みによって, プレート境界面にかかる力が徐々に蓄積し, やがてある強度を超えるとプレートが急激にすべって力を解放することにより巨大地震が発生します。 近年では,1944年には紀伊半島沖を震源域とする東南海地震が, 1946年には紀伊半島から足摺岬沖を震源域とする南海地震が発生しましたが, 遠州灘から駿河湾にかけてはすべりが生じておらず,力が蓄積したままであると考えられており, 地震の発生が懸念されています。
   このような状況の中,2009年8月11日5時7分に駿河湾でマグニチュード6.4の地震が発生しました。 この地震の規模は小さく,また, プレート境界面ではなくフィリピン海プレート内部の断層がすべる地震(スラブ内地震)であったため, 想定東海地震あるいはその前震ではないと考えられています。 しかしながら,地震によるすべりがプレート境界面や活断層にかかる力を変化させ, 別の地震を引き起こした例はこれまでにも知られています。 防災科学技術研究所では,K-NET/KiK-net(強震観測網:用語説明1), Hi-net(高感度地震観測網:用語説明2), F-net(広帯域地震観測網:用語説明3)の観測データを解析し, 2009年8月11日に発生した駿河湾の地震が当該領域付近のプレート間地震の発生に及ぼす影響を評価する包括的な調査研究を行いました。

図1: 駿河湾から四国沖にかけて大地震が繰り返し発生している領域を示しています。 1707年には宝永地震により,1854年には安政東南海地震と安政南海地震によりこの領域全域がすべったと考えられています。 その後,1944年の東南海地震,1946年の南海地震が発生しましたが, 駿河湾の領域はすべっておらず力が蓄積していると考えられています。 赤い長方形は2009年駿河湾の地震の震源断層を示しています。

3.2009年駿河湾の地震の解析

   地震観測データを解析し,2009年駿河湾の地震ではどこでどのようなすべりが生じたかについて調べました。 大地震に引き続いて発生する余震の多くは,大地震ですべった震源断層に沿って発生すると考えられています。 まず,駿河湾の地震の余震の発生位置をHi-netのデータを用いて高い精度で推定しました。 図2の左の図に示すように,余震の発生位置は単純な平面としては並んでおらず, 南東側と北西側で深くなる方向が大きく異なる複雑な分布をしていることが分かりました。 余震の分布とHi-net及びF-netデータから推定された地震の発生様式を詳細に検討した結果, その分布は大局的にはほぼ直角に接する2枚の面で近似できることを見出しました。 これらの2面からなる震源断層のどの場所がどれだけすべったかを詳細に推定するため, K-NETとKiK-netにより観測された近地強震波形データを用いて解析した結果, 図2の右の図に示すように,すべりが始まった点の西に位置する2つの面が接する点の周囲で, 2つの面にまたがってすべりが大きい領域が広がっていることが分かりました。

図2: (左)2009年駿河湾の地震の余震の発生位置を円により示しています。 円の大きさは地震のマグニチュード,色は発生位置の深さを表しています。 星印は駿河湾の地震のすべりが始まった点,長方形はすべりの分布を推定するために設定した震源断層を示しています。 余震の並びに合わせて,ピンク色の震源断層は南東ほど深く,水色の震源断層は北東ほど深くなっています。
(右)駿河湾の地震のすべりの分布を色と0.25 m間隔のコンター線で示しています。 星印で示すすべりが始まった点の西側にすべりの大きい領域が見られます。

4.2009年駿河湾の地震がプレート間地震の発生に及ぼした影響

   地震観測記録を用いて明らかにした駿河湾の地震のすべりの分布から, 想定東海地震の震源断層となるプレート境界面にかかっている力がどのように変化したかを計算しました。 図3は想定東海地震時にプレートがすべる方向の力の変化を表しており,赤色は力が増加したことを, 青色は力が減少したことを示しています。 図3の灰色の長方形で示している想定東海地震の際に大きくすべるアスペリティ (用語説明4)と考えられている領域の大半では,力が増加していたことが分かりました。 このように力が増加した領域では,地震後数ヶ月間の地震活動が地震前の数倍から10倍程度活発になることが予測されました。 そこで駿河湾の地震後1ヶ月間のHi-netのデータを調べたところ, プレート境界面がすべったと考えられる地震の数が予測された程度増加しており,予測が正しかったことが分かりました。

図3: 2009年駿河湾の地震のすべりにより,プレート境界面にかかる, 想定東海地震ですべる方向の力がどのように変化したかについて表しています。 ここで,力の増加及び減少を,それぞれ赤色と青色の濃淡で示しています。 点線の長方形は駿河湾の地震の震源断層を示しています。 灰色の長方形は想定東海地震で大きくすべることが想定されている領域を示しています。 緑色の丸は駿河湾の地震後1ヶ月間にプレート境界面で発生したと考えられる地震の位置を表しており, 力が増加した領域(赤色で表示)で多く発生していることが分かります。


用語説明:
  1. K-NET/KiK-net(強震観測網)
    K-NETは地震被害をもたらす強い揺れまで計測できる地震計を島嶼部まで含めた全国約1000点に配置した地震観測のネットワークです。 得られた記録は,大地震直後の初動態勢の確立や, 過去の地震で強い揺れを引き起こした原因の究明と将来の地震による強い揺れの予測など,地震災害対策に活用されています。 一方,KiK-netもK-NETと同様に強い揺れを計測する地震観測のネットワークですが, Hi-netと共に設置されているため地表だけでなく井戸(ボアホール)の中にも地震計が配置されています。 地表と地中で同時に得られた記録は,揺れを強くする大きな要因である地表付近の地盤の影響に関する研究にも役立っています。
  2. Hi-net(高感度地震観測網)
    地面の微弱な振動まで高い精度で計測できる地震計を全国約800点に配置した地震観測のネットワークです。 人間活動などによる雑音(ノイズ)を避けて微小な地震波をとらえるために, 地中に掘った井戸(ボアホール坑)の中に地震計を置いて観測しています。 井戸の深さは多くの点で数100メートルですが,都市部などでは1000〜3000メートルに達する深い井戸も用いられています。 大地震から微小地震まで地震の発生個所の特定や地球の内部構造の解明などの基礎的な研究のほか, 気象庁から発表される緊急地震速報にも貢献しています。
  3. F-net(広帯域地震観測網
    様々な周期の揺れを正確に計測できる地震計を全国約70ヶ所に配置した地震観測のネットワークです。 ノイズを避けるために,硬い岩盤に掘られた横坑の中に地震計が設置されています。 地震の発生様式(メカニズム解)の推定や地下の非常に深い領域まで含む地球の内部構造の解明に用いられています。
  4. アスペリティ
    プレート境界や活断層において,普段は強く固着して(くっついて)力を蓄積し, 地震時には大きくすべって強い揺れをもたらす地震波を放出する領域です。
<参考資料> この研究は,以下の研究論文で発表されました:
<参考Web> 本件に関連する防災科研のWebページ
<その他>
    解析及び動画による可視化は,防災科研が所有するスーパーコンピュータシステム (米国SGI社製 Altix 4700及び日本SGI社製 Asterism)及び独自に開発した可視化プログラムを用いて行われた。 防災科研では,突発的な大規模自然災害発生時には,計算資源を占有し, 大量のリアルタイムデータ解析や大規模なシミュレーションを実行するような運用を行っている。





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