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   防災科研では,1979年から関東・東海地域において高感度地震観測を行ってきました。 さらに,阪神淡路大震災を契機として設置された地震調査研究推進本部の基本方針に基づき, 日本全国を対象とした高感度地震観測網・Hi-netを構築してきました。 その結果,関東地域は世界的にも希な,高密度かつ高精度な定常地震観測網の存在する地域となりました。 この領域における地震波速度構造解析の結果を2005年にアメリカ地球物理学連合(AGU)が発行している Journal of Geophysical Research誌に発表いたしました。

   Matsubara, M., H. Hayashi, K. Obara, and K. Kasahara (2005), Low-velocity oceanic crust at the top of the Philippine Sea and Pacific plates beneath the Kanto region, central Japan, imaged by seismic tomography, J. Geophys. Res., 110, B12304, doi:10.1029/2005JB003673.

   この研究で得られた主要な成果は
  • 太平洋プレート・フィリピン海プレートの2枚の海洋性プレートが沈み込む様子を捉えられたこと
  • フィリピン海プレートの沈み込みにより,太平洋プレート上面の温度の低下を示唆する事実を捉えられたこと
  • 過去の研究により蛇紋岩化している領域の蛇紋岩化の割合の推定が可能になったこと
   です。
   関東地域の下に太平洋プレート・フィリピン海プレートの2枚の海洋性プレートが沈み込む様子をとらえることに成功しました。
   図1と図2は関東地域の下の速度構造の南北断面を示します。 が地震波速度(P波速度[Vp]・S波速度[Vs])の遅いところ,が速いところを表します。 本研究から推定されたフィリピン海プレートの上面を青い破線で,太平洋プレートの上面を赤い短い破線で示します。 海洋性プレートの最上部に存在する海洋性地殻が,赤色の帯として明瞭にイメージングされています(図1・図2)。 これは,海洋性地殻内の地震波速度が周辺部よりも遅いことを表しています。
   水色の一点鎖線はそれぞれIshida(1992)により推定されたフィリピン海プレート・太平洋プレートの上面を示します。 青い実線はP波やS波の後続波を用いてHori(1990)により推定されたフィリピン海プレート上面を表します。 密度の高い観測網の構築や三次元速度構造による震源決定により,太平洋・フィリピン海プレートの上面の深さは Ishida (1992)よりも10km程度浅く推定されました。 北緯36˚付近でフィリピン海プレート上面はHori (1990)の位置と調和的です。
図1
図1 東経139.4˚における速度パーターべーション構造とVp/Vs構造
図2
図2 北緯35.75˚における速度パーターべーション構造とVp/Vs構造
   太平洋プレート上面に位置する海洋性地殻は深さ120km程度まで捉えられます(図2)。 海洋性地殻を構成する斑レイ岩は深部ではエクロジャイトに変成します。 深さ100km付近の圧力は3.4GPa程度,温度は370℃程度と推定されています(Iwamori, 2000)。 この圧力では,斑レイ岩からエクロジャイトへの変成は450℃程度で起こります(Hacker et al., 2003)。 この深さでは変成が起こっておらず,低速度な海洋性地殻を捉えられたと考えられます。 沈み込むフィリピン海プレートがマントル対流を妨げているために太平洋プレートの温度が低くなっていると考えられ, そのことを示唆するモデルが得られました。この点について,後にHasegawa et al. (2007) は我々と同様の結果を得ています。
   水平断面を見てみます。 北緯35.75˚付近の深さ30〜40km付近には,低速度領域が南北30km, 厚さ15km程度分布しています(図3)。 この中でも,東経139.4˚付近と139.9˚付近を中心にVp/Vsの高い領域が存在します。 Vp/Vs構造では,赤いところが変形しやすいところ,青いところが変形しにくいところを示します。 東経139.4˚付近では,Kamiya and Kobayashi (2000)により蛇紋岩の存在が示唆されています。 本解析から得られた速度とCristensen(1996)の実験データから, この領域の陸側プレートの下のマントルが蛇紋岩化しているとすると,20〜30%蛇紋岩化していると推定されます。
図3
図3 深さ30kmにおける速度パーターべーション構造とVp/Vs構造。
※ パーターベーション構造:地震波が伝わる速度は,深さによって大きく変化することが知られています。 三次元の地震波速度構造を調べる場合,地域ごとの(水平方向)の速度の違いをより明瞭に見るために, 同じ深さの平均的な地震波速度からの「ずれ」の度合を表示することがあります。 この平均値からの「ずれ」をパータベーション(perturbation)と呼んでいます。

█ 参考文献
  • Christensen, N. I. (1996), Poisson’s ratio and crustal seismology, J. Geophys. Res., 101, 3139? 3156. Hacker, B. R., G. A. Abers, and S. M. Peacock (2003), Subduction factory: 1. Theoretical mineralogy, densities, seismic wave speeds, and H2O contents, J. Geophys. Res., 108(B1), 2029, doi:10.1029/2001JB001127.
  • Hasegawa, A., J. Nakajima, S. Kita, T. Okada, T. Matsuzawa, and S. H. Kirby (2007), Anomalous deepening of a belt of intraslab earthquakes in the Pacific slab crust under Kanto, central Japan: Possible anomalous thermal shielding, dehydration reactions, and seismicity caused by shallower cold slab material, Geophys. Res. Lett., 34, L09305, doi:10.1029/2007GL029616.
  • Hori, S. (1990), Seismic waves guided by untransformed oceanic crust subducting into the mantle: The case of the Kanto district, central Japan, Tectonophysics, 176, 355-376.
  • Ishida, M. (1992), Geometry and relative motion of the Philippine Sea plate and Pacific plate beneath the Kanto-Tokai district, Japan, J. Geophys. Res., 97, 489-513.
  • Iwamori, H. (2000), Deep subduction of H2O and deflection of volcanic chain towards backarc near triple junction due to lower temperature, Earth Planet. Sci. Lett., 181, 41-46.
  • Kamiya, S., and Y. Kobayashi (2000), Seismological evidence for the existence of serpentinized wedge mantle, Geophys. Res. Lett., 27, 819-822.
  • Sato, H., N. Hirata, K. Koketsu, D. Okaya, S. Abe, R. Kobayashi, M. Matsubara, T. Iwasaki, T. Ito, T. Ikawa, T. Kawanaka, K. Kasahara, and S. Harder, 2005, Earthquake source fault beneath Tokyo, Science, 309, 462-464.

█ 関連論文
  • 松原誠・根岸弘明,2003,中部地方の地殻・最上部マントルトモグラフィーと飛騨山脈下の詳細トモグラフィー, 月刊地球,25,938-944.
  • Matsubara, M., N. Hirata, H. Sato, and S. Sakai (2004), Lower crustal fluid distribution in the northeastern Japan arc revealed by high resolution 3-D seismic tomography, Tectonophysics, 388, 33-45.
  • 松原誠・関根秀太郎・林広樹・小原一成・笠原敬司,2007, Hi-netのデータを用いた三次元速度・Q構造によるフィリピン海プレートのイメージング,月刊地球,号外57,60-70.