防災科研では,1979年から関東・東海地域において高感度地震観測を行ってきました。 さらに,阪神淡路大震災を契機として設置された地震調査研究推進本部の基本方針に基づき,日本全国を対象とした高感度地震観測網・Hi-netを構築してきました。 このHi-netは,全国的に統一的な観測点仕様による平均間隔20〜25kmという高密度で均質な観測網です。 この地震観測データは,気象庁における監視業務等に利用されるとともに,ホームページを通じてすべて公開されており,日本における地震調査研究に大いに活用されています。 我々はこの地震観測データを使用し,日本列島下の三次元地震波速度構造に関する研究を進めてきました。 日本列島全域における三次元地震波速度構造の標準的モデルを高分解能で得ることができ,Tectonophysics誌に掲載されましたので,その標準的構造モデルを公開いたします。

   解析手法や結果に関する詳細は,以下の論文を参照してください。
   Matsubara, M., K. Obara, and K. Kasahara (2008), Three-dimensional P-and S-wave velocity structures beneath the Japan Is lands obtained by high-density seismic stations by seismic tomography, Tectonophysics, 454, 86-103, doi:10.1016/j.tecto.2008.04.016.

   この研究で得られた主要な成果は
  • 一次元速度構造という単純な仮定のみで,不連続面を仮定しなくとも, 高速度領域として太平洋プレートやフィリピン海プレートをイメージングし, 2枚の海洋性プレートが沈み込む様子を捉えたこと
  • 沈み込む太平洋プレートやフィリピン海プレートの最上部に位置する低速度海洋性地殻のイメージングが可能になったこと
  • 太平洋プレート内における二重深発地震面の間の不均質構造を捉えたこと
   です。
   図1では深さ10kmと20kmの水平断面を示します。 が地震波速度(P波速度[Vp]・S波速度[Vs])の遅いところ,が速いところを表します。 中央構造線を境に,南側が低速度領域,北側が高速度領域になっていることが分かります。

   図2は深さ25kmのVp/Vs構造です。 が変形しやすいところ,が変形しにくいところを示します。 東北日本弧では火山フロントに沿って高Vp/Vsであり, 日本海東縁(岡村, 2002; Okamura et al., 2007)や 新潟県-神戸歪集中帯(Sagiya et al., 2000)の端に位置しています。
図1
図1 深さ10km,20kmにおける速度パーターべーション構造
図2
図2 深さ25kmにおけるVp/Vs構造
図3
図3 北海道地方の地震波速度構造 (南北断面)
   図3は,北海道地方の地震波速度構造の南北断面です。黄色が低速度領域を,青色が高速度領域を示します。 沈み込む太平洋プレートが高速度にイメージングされています。 また,北緯43度付近では高速度な太平洋プレート内にも周囲よりは低速度な領域が存在することが示唆されています。
   図4では関東から近畿地方にかけての東西断面を示します。 沈み込む太平洋プレートの最上部の低速度海洋性地殻が深さ150km程度までイメージングされています。

   図5は紀伊半島を東西に横切る断面です。 深さ30〜40km付近では,プレート境界付近での深部低周波微動(Obara, 2002)と沈み込むフィリピン海プレートの 海洋性地殻内で発生する地震が分布し, 深さ50〜80kmではフィリピン海プレートのマントル内で発生する地震が分布しています。

   図6は,九州地方南部の地震波速度パーターベーション構造の東西断面です。 急角度で沈み込む高速度なフィリピン海プレートと,その最上部の低速度海洋性地殻がイメージングされています。
図4
図4 関東地方から近畿地方にかけての地震波速度構造
(東西断面)
図5
図5 紀伊半島の地震波速度構造 (東西断面)
図6
図6 九州地方の地震波速度構造 (東西断面)
※ パーターベーション構造:地震波が伝わる速度は,深さによっても変化していきます。 三次元の地震波速度構造を調べる場合,地域ごとの(水平方向)の速度の違いをより明瞭に見るために, 同じ深さの平均的な地震波速度からの「ずれ」の度合を表示することがあります。 この平均値からの「ずれ」をパーターベーション(perturbation)と呼んでいます。


█ 参考文献
  • Obara, K., 2002. Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan. Science 296, 1679-1681.
  • 岡村行信, 2002. 新第三紀以降の歪み集中帯, 日本海東縁の活断層と地震テクトニクス(東京大学出版会) pp. 111-121.
  • Okamura, Y., T. Ishiyama, and Y. Yanagisawa, 2007. Fault-related folds above the source fault of the 2004 mid-Niigata Prefecture earthquake, in a fold-and-thrust belt caused by basin inversion along the eastern margin of the Japan Sea, J. Geophys. Res., 112, B03S08, doi:10.1029/2006JB004320.
  • Sagiya, T., S. Miyazaki, and T. Tada, 2000. Continuous GPS array and present-day crustal deformation of Japan, Pure appl. geophys. 157, 2303-2322.

█ 関連論文
  • Matsubara, M., N. Hirata, S. Sakai, and I. Kaswasaki, 2000, A low velocity zone beneath the Hida Mountains derived fromdense array observation and tomographic method, Earth, Planets and Space, 52, 143-154.
  • 松原誠・根岸弘明,2003, 中部地方の地殻・最上部マントルトモグラフィーと飛騨山脈下の詳細トモグラフィー,月刊地球,25,938-944.
  • Matsubara, M., N. Hirata, H. Sato, and S. Sakai, 2004, Lower crustal fluid distribution in the northeastern Japan arc revealed by high resolution 3-D seismic tomography, Tectonophysics, 388, 33-45, doi:10.1016/j.tecto.2004.07.046.
  • 松原誠・関根秀太郎・林広樹・小原一成・笠原敬司,2007, Hi-netのデータを用いた三次元速度・Q構造によるフィリピン海プレートのイメージング,月刊地球,号外57,60-70.
  • Matsubara, M., H. Hayashi, K. Obara, and K. Kasahara, 2005, Low-velocity oceanic crust at the top of the Philippine Sea and Pacific plates beneath the Kanto region, central Japan, imaged by seismic tomography, J. Geophys. Res. 110, B12304, doi:10.1029/2005JB003673.