✏ 2010年7月9日 プレス発表資料
NIED ERI 沈み込むプレートの地殻のはがれを発見
   〜深部底付け作用を実証〜
1.はじめに

   独立行政法人防災科学技術研究所(理事長: 岡田義光)および 東京大学地震研究所(所長: 平田直) は, 防災科学技術研究所の定常地震観測網のデータと反射法構造探査データ(補足説明参照)の解析から, 沈み込むプレートの表面がはがれて日本列島の地殻の底に付加する現象 ― 底付け作用 ― が進行していることを明らかにしました。
   深さ10km以上での底付け作用はこれまで間接的に示されていただけですが, 現在進行中の現象として明らかとなったのは初めてのことです。 この発見はプレート境界の新たな変形過程を明らかにしたものであり, プレート境界地震のメカニズムを理解する上で重要な成果です。
   本成果は7月9日に米国科学雑誌 サイエンス誌オンライン掲載されました。

2.背景

   海洋プレートは陸の下に潜り込むときにその最上部がはがれ, 上盤側プレートの底に付加されることが知られています(図1)。 この現象は『底付け作用』と呼ばれ,日本列島の地殻形成に直接的に関与していると考えられています。 海溝付近の浅部での未固結堆積層の底付けは3次元反射法構造探査および深海掘削により明らかにされてきました。 一方,深さ10kmを越える深部での底付けに関しては, 地表に露出した低温高圧変成岩(補足説明参照) および深部構造探査により間接的に示されてきただけであり, 現在進行中の深部底付け作用の確実な証拠はなく,また短い時間スケールでの振舞いもよく分かっていませんでした。
   関東地方の下にはフィリピン海プレートが沈み込んでいることから,様々なプレート境界現象が発生します。 房総沖では浅部から順に,巨大地震,スロースリップイベント(補足説明参照), および相似地震(補足説明参照)の活動域が順番に近接して並びます(図2)。 相似地震はプレート境界上の微小な固着部分における破壊の繰り返しと考えられ, 現在活動的なプレート境界の指標として利用できます。
   今回,深部反射法構造探査の結果と相似地震を詳細に比較することで底付け作用を捉えることができました。 通常,構造探査の結果と震源分布を高い精度で直接比較することは困難でしたが, 複合的な解析を行うことでこの問題を解決しました。

3.成果

   房総沖の反射法構造探査のデータを解析したところ,相似地震発生域の詳細な構造を明らかにすることが出来ました。 その結果,沈み込むプレート最上部に伊豆小笠原島孤の海底火山より噴出された火山性砕屑物および火山岩からなる層(以後,VCR層とする)が分布し, このVCR層の下面では地震波速度が大きく変化することが分かりました(図3)。
   防災科学技術研究所による1979年から2003年までの房総沖の約2000個の地震の波形データを調べたところ, VCR層の下面の性質を示す波を見出すことができました。 この波の詳細な解析結果と高精度震源決定結果を組み合わせたところ, 相似地震がVCR層の下面から1.6 km以内に分布することが明らかとなりました(図3)。

4.底付け作用の意義

   相似地震は現在活動的なプレート境界を表すことから, 相似地震がVCR層の底に分布することはVCR層が現在底付けされていることを示します(図4)。 これは日本列島の地殻が成長する現場に相当します。 また,底付け作用の発生場の浅い側では活動的なプレート境界がはがれた物質(VCR層)の上面から下面に移ることが期待されますが, この場所はスロースリップイベントの発生域に相当します(図4)。 房総スロースリップイベントは,平均6年間隔で繰り返し発生することが知られていることから, 底付け作用の進行は間欠的であることが示唆されます。 房総スロースリップイベントは巨大地震に近接することから, 今回の発見はプレート境界地震のメカニズムを理解する上で重要な成果です。

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図1


図1. 沈み込み帯深部で進行する底付け作用の模式図。 海底堆積物が浅部で付加する現象がはぎとり付加と呼ばれるのに対し, 沈み込むプレートの最上部がはがれ上盤側プレートの底部に付加される現象は底付け作用と呼ばれています。 地殻の引きはがしは深部ではじめて起こります。

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図2


図2. 房総半島沖の様々なプレート境界現象および深部反射法構造探査の測線(青線)。 1923年関東地震,その最大余震,スロースリップ,および相似地震(赤丸)の震源域をメカニズム解とともに示します。 緑線は相似地震から推定されたフィリピン海プレートの形状モデルです(数字は深さ(km))。

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図3


図3. 深部反射法構造探査P1およびP2(測線の場所は図2参照)による地下構造断面。 P2は N30E の方向に投影して示しています。赤矢印はプレート境界を示します。 P2には高精度震源分布を重ねて示します。 赤丸は相似地震を, 黒丸は通常の地震を表します。

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図4


図4. 房総沖のフィリピン海プレートの構造,現在活動的なプレート境界(赤線), および底付け作用の模式図。 房総沖のプレート境界現象の発生域をあわせて示します。

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【補足説明】
    ① 反射法構造探査
    人工震源を用い地下の不連続面からの反射波を用いて地下構造のイメージングを得る探査手法です。 高い空間分解能で構造断面が得られることが特徴です。 深部反射法構造探査により房総半島沖のフィリピン海プレートの構造が明瞭にイメージングされました (図3)。

    ② 低温高圧変成岩
    温度・圧力条件によって岩石の組織構造および結晶構造が変化することが知られています。 これは変成作用と呼ばれ低温かつ高圧な環境で変成された岩石は低温高圧変成岩と呼ばれます。 プレート沈み込み帯の深部延長でこのような条件が成立すると考えられています。

    ③ スロースリップイベント
    プレート境界のすべりが,地震波を伴わずに数日から1年かけてゆっくりと発生する現象です。 房総沖のスロースリップイベントは約10日の継続時間を持ち平均6年間隔で繰り返し発生することが知られています。 房総スロースリップイベントに伴う地殻変動は防災科学技術研究所の観測網でも明瞭に捉えられました。 (詳細はこちら)

    ④ 相似地震
    自然地震で波形記録が類似している地震のグループを相似地震と呼びます。 中でもプレート境界で発生し波形の類似性が特に高いものはプレート境界上に分布した微小なパッチにおける破壊の繰り返しと考えられプレート運動の指標として利用できます。 防災科学技術研究所の地震波形データを解析することで多くの相似地震が見出されています。 (詳細はこちら)