11.6 各種基礎研究

 以上に述べた様々な観測や調査と並んで, 地震の発生とその準備過程に関する各種の基礎的な理論研究や実験研究も大変に重要です.

 岩石破壊実験により,地震発生前後における岩石の微視的な変形や, 微小破壊の時空間分布等を詳しく調べたり,岩石同士が接触する面の性質に関する様々な実験を行ったり, 地球内部の高温・高圧状態における岩石物性を調べたり,といった研究が, (旧)地質調査所や大学のグループ等によって行われています.
 これらの実験結果や,地震に関する諸観測事実を合理的に説明するため,地震の発生や, 地震サイクルに関する理論的モデルの研究も,多くの機関で進められています. とくに最近では,摩擦すべりに関する精密な岩石実験から得られた「摩擦構成則」を組み込んで, 地震の発生する場を計算機内に再現するシミュレーション研究も盛んに行われるようになってきました.

 これらの研究の成果によれば,地震の発生は全く突然に起こるわけではなく, 非常にゆっくりと進行する「破壊核形成」という段階を経たのち,徐々に「前駆的すべり」という現象が始まり, やがて加速的な破壊,すなわち本震の発生に至るという筋書きが描かれています. そして,この過程では,震源域周辺における応力変化に対応した地震活動度の変化や, 破壊前における地表面の異常変形といった,前兆的現象の出現も予想されています.

=== 図11.7 プレート間境界地震による地表の上下変動のシミュレーション(Kato and Hirasawa,1996, PEPI,102より) ===
プレート間境界地震による地表の上下変動のシミュレーション
 図11.7は, プレート境界の固着域に摩擦構成則を組込み,プレート運動を与えた際に, 地表の5つの点で期待される上下変動の様子を計算機シミュレーションによって求めた結果を示します. 左下は地震発生前70年間の変化を示し,ハッチをかけた最後の7年間が右上に拡大されています。 また,右下は地震発生直前の2日間の様子です。
 最初のうちは,プレートの引きずり込みに伴って一定の沈下を示しますが, 地震発生の直前の段階では,隆起に転じるなど,特異な現象が出現することが予想されます.

 近年の計算機技術の発展により,これらのシミュレーション研究は,より高度なものへと発展するでしょう. 一方,阪神・淡路大震災以降,国による基盤的地震調査観測計画の進展によって, これまでにない高密度・高品質の地震・地殻変動データが得られるようになり, このような理論モデルの検証ならびに改良を効果的に実施できる環境も整ってきました.
 理論と観測の両面における進歩によって, やがては有効な地震予知への道が切り開かれることを期待したいものです.



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