我が国の周辺で発生する海溝型地震はまれに東北地方太平洋沖地震(M9.0)のような超巨大地震になることはあるものの通常はM8級であり,津波を伴って広範な地域に大きな被害を与える場合が多くあります.しかし,関東地震と東海地震を除けば,その発生場所は沖合いにあるため,我々が生活を営む陸地においては,地震による直接の揺れはいくらか緩和されています.
一方,内陸で発生する活断層型の地震はまれに濃尾地震(M8.0)のような巨大地震となることはあるものの通常M7級であり,海溝型巨大地震に較べれば,そのエネルギーは1桁小さいものです.しかしながら,このような内陸型地震は我々の住むすぐ足元で発生するため,たとえ局地的であっても激しい揺れを伴い,人命の損傷や構造物の破壊等,甚大な被害を引き起こす場合がまれではありません.我々の受ける被害という面から見れば,小さな内陸型地震も,大きな海溝型地震にひけをとらず恐ろしい存在です.
=== 図6.6 最近111年間(1900〜2010年)に日本周辺で発生し,死者を伴った地震 ===
図6.6は,理科年表(平成16年度版)のデータに基づいて,1900〜2010年の111年間に発生し,死者を伴った被害地震を,海溝型地震と内陸型地震とに便宜的に分けて集計したものです.
各々はマグニチュードの大きさの順に並べてあり,横軸には死者・行方不明者数を対数目盛で記してあります.地震による被害にはさまざまな様相があり,また,建築物の耐震性や社会構造も時代によって変化しているので,死者数のみで地震災害を比較することには問題がありますが,ひとつの目安にはなるでしょう.
図6.6を全体として眺めると,死者数はマグニチュードの大きい順に並んでいるわけではないことがわかります.災害は,自然現象の大きさと人間社会との相互作用によって生じるものですから,これは当然のことでしょう.しかし,そうはいっても,やはりマグニチュードの大きな地震ほど,全体としては被害が大きくなるという一般的傾向は認められます.
次に,海溝型と内陸型に分けて各々の被害の分布を見てみましょう.まず,海溝型地震にはM8級の巨大なものが含まれていますが,死者を出すような地震はおおむねM7以上に限られ,M6級では3例が記録され ているのみです.これに対して,内陸型地震ではM7級が最大の地震となっていますが,M6級以下の中規模地震でも死者を伴うケースが多く,M5級の地震でも死者を出している例が2つあります.
ここで,10万5千人余という未曾有の死者・行方不明者を出した1923年関東地震(M7.9)を別格として除外すれば,この111年間に地震の犠牲者となった人の総数は,海溝型地震が6,247人なのに対して,内陸型地震では17,824人と,約3倍の死者数に達しています.被害という面では,内陸型地震の方が海溝型地震よりもむしろ深刻であるということがよくわかります.
=== 図6.7 最近111年間(1900〜2010年)に発生したM7以上,深さ100km以浅の地震(白丸)と,1,000人以上の死者を伴った地震(赤丸) ===
次に,図6.7は,我が国の周辺で1900〜2010年の111年間に発生したM7以上の地震(深さ100km以浅)の分布を示しています.図中には110個の地震がプロットされていますので,平均するとほぼ1年に1個の割合でM7以上の地震が発生していることになります.
この中で,赤く塗りつぶされているのは,1,000名を超える死者・行方不明者を伴った地震であり,この111年間に9例が数えられます.すなわち我が国では,平均するとほぼ10年に1度,1,000名を超える犠牲者を伴う被害地震が発生していることになります.この9例のうち,海溝型地震は4つであり,残る5つは内陸型地震となっています.
また,この9例を地域的に見ると,1923年関東地震(M7.9)と1933年三陸地震(M8.3)以外は,すべて近畿および中部地方に集中していることが注目されます.東北日本や九州地方では,M7以上の地震の発生数こそ多いものの,大被害地震は稀なのに対し,近畿地方周辺では,M7以上の地震はめったに起こらないものの,ひとたび発生すれば大きな災害をもたらす場合が多いことがわかります.
1995年の阪神・淡路大震災の直後,「まさか関西地方に大きな地震が来るとは思わなかった」という声が多くの市民からあったと聞きますが,近畿・中部地方は上記のような特質をもっていることに十分注意せねばなりません.