4章 地震はなぜ起きるのか

 地震の発生の様子を示した図2.1では, 岩盤の両端に力が加わり,この力が増大していくことによって断層運動が生じることを述べました. では,そもそもこの力は何によってもたらされているのでしょう?  この疑問に対して答えることは,そもそも地震はなぜ発生するのかという根本問題に答えることにほかなりません.


4.1 プレートテクトニクス

 地震を引き起こす力の根源を探し求めていくと,最後にたどりつくのは高温の地球中心部ということになります. 地球の内部は,図4.1に示すような球殻構造になっており, よく卵にたとえられます. 殻の部分にあたるのが地球表層部の「地殻」,白身の部分が「マントル」,黄身の部分が「核」と呼ばれ, 「核」は流体の「外核」と固体の「内核」から構成されていると考えられています.

=== 図4.1 地球の内部構造(竹内均「地球の科学」NHKブックスより) ===
地球の内部構造
 地球の中心部付近は6,000〜7,000℃という高温の状態になっており, この熱エネルギーを宇宙空間に放出する営みの一環として, 岩石圏全体にわたるゆっくりとした物質の流れ(マントル対流)が生じていると考えられています. つまり,地球そのものが巨大な熱機関となっているわけです.

 岩石のような固体が動くということはなかなか信じにくいことですが, 何億年という時間スケールと非常な高温という環境を考えれば, 岩石はむしろ硬い水飴のような性質を持っていると考えるべきです.
 動くといってもそのスピードは大変に遅く,年間に数cm程度とされています. あまりにゆっくりなため,この数字を実感することは困難ですが, 人間の爪が伸びる速度とほぼ同じと言えば,現実味が増すでしょうか. 今この値を仮に年間10cmとすれば,10年で1m,千年で100m,百万年で100kmとなり, 2億年もすれば太平洋を横断する距離となります.まさに「塵も積もれば山となる」のたとえ通りです.



=== 図4.2 太平洋の地図.緑の矢印は各地点のテクトニックな動きを示す.(竹内均「地球の科学」NHKブックスより) ===
太平洋の地図
 地面が動いていることを示す証拠はいくつもあるのですが,ここではわかりやすい例をひとつだけ挙げましょう.
 図4.2は太平洋の地図です. 太平洋にはいくつもの島々がありますが,よく見ると,ハワイ諸島,ソロモン諸島,サモア諸島といった, ほぼ東西に並ぶ列状の島々からなっています. しかも,各々の島の年令を調べてみると,一列に並ぶ島々のうち,東側にあるほど若い島で, 西側へ行くほど順々に年老いた島となっています. ハワイ諸島を例にとると,一番東側のハワイ島では有名なキラウェア火山が盛んに活動しており, 出来たばかりの若い島ですが,ホノルルのあるオアフ島などはすっかり落ち着いた島になっています.



=== 図4.3 太平洋の島々の成因(竹内均「地球の科学」NHKブックスより) ===
太平洋の島々の成因
 このように太平洋の島々が同じ方向に並び, いずれの諸島も例外なく西から東へ年の順に並んでいるというのは偶然でしょうか. 「神様がそのように作られた」と考えても構いませんが, それよりも図4.3のように考えるほうが自然です.
 地下からマグマが上がってきて海底火山を作り,それがやがて成長して島になります. 海底がじっとしていれば事件はそれでおしまいですが,もし海底が動いているとすれば, やがてマグマの供給路を絶たれた島は火山活動をやめ,その後は波や風に削られ, 周囲に珊瑚礁がついて,穏やかな島へと変わっていきます. 一方,東側ではまた新しい島が誕生し,「・・・諸島」を形成することになるわけです.



=== 図4.4 新しい火山島の誕生(毎日新聞1997年8月27日朝刊) ===
新しい火山島の誕生を伝える新聞記事
 このような考えを支持する証拠として, 最近,ハワイ島の東方沖の海底に新しい島が生まれつつあるとの観測結果がハワイ大学より報告されています (図4.4).

 ただ,このように証拠を並べても, これらは「海底が動いていると考えれば都合がよい,説明がし易い」というだけの状況証拠であって, 本当に動いているのを実証したわけではないとの反論があるかもしれません.
 しかし最近では,宇宙技術の発達によって,その実測が可能となってきました. もともと電波天文学の道具であったVLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)を用いて, 宇宙のはるかかなたにある準星(クェーサー)からの雑音電波を地球上の遠く離れた2地点で受信することにより, 大陸と大陸との間の距離をセンチメートルの精度で測ることができる時代になっていたのです. (10.3節参照)



=== 図4.5 鹿島〜カウアイ間の距離変化(通信総合研究所による) ===
カウアイ〜鹿嶋間の距離変化
 図4.5は,このVLBI技術によって, ハワイ諸島のカウアイ島と茨城県鹿嶋との間の距離を4年間にわたって測定した結果を示しています. 約5700km離れた日本とハワイの距離は毎年6.5cmのスピードで接近していることが, まぎれもない観測事実として確かめられ,上記のような考えが正しいことが認められました.



 このように,「動かざること大地の如し」に代表される固定的な地球という観点から, 流動し進化する地球という概念への大変革が起こったのは1960年代後半であり, 新しい考え方は,「大陸移動説」や「海洋底拡大説」を統合した形で 「プレートテクトニクス理論」と総称されるようになりました. このような思想の大転換は,天文学における地動説の出現,生物学における進化論の出現に匹敵するものです.
 プレートテクトニクス理論では,地球表面が10数枚のプレート(plate:岩板と訳される)により覆われ, 各々は独自の動きをしていると考えます. そして,プレート同士が接する境界部付近では,地震や火山といった活発な地学現象が生じることになるというものです (図4.6).

=== 図4.6 プレートテクトニクスの概念 ===
プレートテクトニクスの概念
 プレートが動いているという考えは,当初,仮説として提唱されたものですが, 上に述べたVLBI等の宇宙技術の発達によって大陸間の距離が直接精密に測定されるようになり, プレート理論は今や仮説ではなく事実となっています.
 プレートが生まれるのは海嶺や海膨と呼ばれる海底の高まり部分であり, ここでは地下深部から熱い物質が湧き上がり左右に分かれていきます. 海底を移動するうち物質は徐々に冷やされ,表面から深さ数10kmくらいまでの部分はカチカチに硬くなります. 1,000kmオーダーの横の拡がりに較べれば,数10kmという厚さは大変に薄く,まるで板のような状態のため, プレート(板)と呼ばれています.



=== 図4.7 トンガ海溝近くのプレートの沈み込み(J.T.Wilson編「大陸移動」別冊サイエンスより) ===
トンガ海溝近くのプレートの沈み込み
 海底を旅したプレートはやがて他のプレートと出会い, 海溝やトラフ(舟状海盆)と呼ばれる深い溝状の海底地形を作りつつ,再び地球深部へと沈み込んでいきます.
 図4.7は, トンガ海溝近くにおけるプレートの沈み込みの様子を,鉛直方向を10倍に拡大して示したものです. 海中に沈んだ島は高さ8,100mの海山となり,頂上は海面下360mにあります. また,頂部の平坦面は海溝に向かって約3度傾いています.

 このような沈み込み以外に,プレート同士の関係としては, お互いに横にすれ違ってサンアンドレアス断層(カリフォルニア)のような地震帯を形成したり, お互いが衝突してヒマラヤやアルプスのような高い山脈を形成したりする場合があります.


=== 図4.8 国際地震センターの資料に基づく世界の震源分布(1985〜1994年,M4以上,深さ100km以浅)(科学技術庁パンフ「大地震のあと,余震はどうなるか」より) ===
世界の震源分布
 図4.8は,1985〜1994年の10年間に世界で発生した, M4以上で深さが100km以浅の地震の震源分布を示しています. この震源配列は,そのままプレートとプレートを区分する境界線となっており, これらのうち,海底の部分は,海嶺または海溝の位置に一致していることが明らかです.



=== 図4.9 日本列島周辺のプレート構造(萩原尊禮編「日本列島の地震,地震工学と地震地体構造」鹿島出版会より) ===
日本列島周辺のプレート構造
 ここで日本周辺に目を向けると,日本列島をめぐるプレートの状況は 図4.9に示すようになっています.
 北日本の東方には,ハワイ諸島をのせた厚さ70〜100kmの太平洋プレートがあって, 西北西に年間約8cmの速度で進んでいます. 太平洋プレートは,北海道沖合いの千島海溝,三陸・房総沖合いの日本海溝, そして伊豆諸島東方の伊豆・小笠原海溝を結ぶ位置から日本列島下に沈み込んでいます.
 一方,西日本の南方には,厚さ30〜40kmのフィリピン海プレートがあって,北西方向に年間約4cmの速度で進んでいます. フィリピン海プレートは,房総半島南方から相模湾にかけての相模トラフ, 駿河湾から遠州灘にかけての駿河トラフ,東海・紀伊半島・四国沖合いの南海トラフ, そして南西諸島に沿う南西諸島海溝へと続く位置から,日本列島の下へと沈み込んでいます.



=== 図4.10 太平洋プレートとフィリピン海プレートの上面等深線 (萩原尊禮編「日本列島の地震地震工学と地震地体構造」鹿島出版会,1991), および関東地域のフィリピン海プレートの新モデル (中央防災会議「首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等の震源断層モデルと震源分布・津波高等に関する報告書」,2013) ===
太平洋プレートとフィリピン海プレートの上面等深線 太平洋プレートとフィリピン海プレートの上面等深線
 この2つの海洋性プレートの上面等深線は, 図4.10のような形となっています. 太平洋プレートは比較的スムーズな形状なのに対し, フィリピン海プレートはかなりくにゃくにゃと曲がった複雑な形状を呈しています. これは,フィリピン海プレートがまだ若く,プレートの厚さが薄いためであると思われます. なお,関東地域のフィリピン海プレートの形状については, 文部科学省による首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(2007-2011)によって新しいモデルが提出され, 中央防災会議での被害想定作業などに用いられました.



 なお,我々が暮らす陸側の日本列島は,従来, ヨーロッパからアジアにかけて広がる広大なユーラシアプレートの一部とされてきましたが, 最近,日本海側で1983年日本海中部地震(M7.7)や1993年北海道南西沖地震(M7.8)のような大地震が続けて発生したことから, 日本海東縁部には新しくプレート境界が生まれつつあるとの認識がもたれるようになりました.
 これを受けて,日本列島中央部の糸魚川〜静岡構造線あたりを境界として, 北東日本側は北米プレートの一部に属するとの考えが提出されています. また,ユーラシアプレートを細分化して,西南日本はアムールプレート, 東北日本はオホーツクプレートに属するとの考えも,有力な説として議論されています.

=== 図4.11 1980年1月〜1998年5月に首都圏中心部の100km立方領域で発生した地震の震源分布(防災科研データによる)と、首都圏直下に発生する地震の5つのタイプ(岡田義光,1992,地震学会予稿集) ===
首都圏中心部の100km立方領域で発生した地震の震源分布 首都圏直下に発生する地震の5つのタイプ
 図4.10によれば,関東地方では, 陸のプレートの下にフィリピン海プレートと太平洋プレートとが相接して沈み込むという異常な状態となっており, 我が国でももっとも複雑で活発な地震活動 (図1.5参照)が引き起こされる原因になっています.

 図4.11(左)は、 首都圏中心部の東西・南北・深さがそれぞれ100kmの領域内で最近約20年間に発生した24,000個あまりの 地震の震源分布を示しています。ここには、沈み込んだ2つの海洋性プレートの姿がはっきりと映し出されています。
 このような観測データに基づいて、首都圏直下に発生する複雑な地震活動は、 単純化すれば図4.11(右)のような5つのタイプに分類できることがわかってきました。すなわち|漏明部の活断層による地震(東京周辺では発生頻度が少ない)、▲侫リピン海プレートの境界で発生する地震(1923年関東地震など)、フィリピン海プレートの内部で発生する地震(1987年千葉県東方沖地震など)、ぢ席人離廛譟璽箸龍界で発生する地震、ヂ席人離廛譟璽箸瞭睇瑤波生する地震、の5つです。




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