第1部 地震の基礎知識

1章 大きな地震と小さな地震

  私たちは,これまでの経験から,大きな地震はめったに起こらないが, 小さな地震は頻繁に発生することを知っています。 ところで,地震の大きさを表わす言葉には,「震度」と「マグニチュード」(Mと略記される場合が多い) という2つの用語があり,世の中では大変に混同して用いられています。 これには,そもそも「地震」という言葉が二重性を有していることに災いの元があります。 地震に関するありふれた新聞記事を見てみましょう。

28日午前2時29分ごろ,伊豆大島町で震度2の地震があった。
気象庁の観測によると,震源地は伊豆大島近海で,震源の深さは
ごく浅く,地震の規模を示すマグニチュード(M)は2.0と推定される。

  この中には「地震」という言葉が2回登場しますが,実はこの2つは意味が異なっています。 最初に出てくる「地震」は単に地面が揺れたということを指しており, 素朴な意味での地震(地面の震動)を表しています。 これに対して,2番目の「地震」は震源で起きているおおもとの現象そのものを表しており, 関東地震や兵庫県南部地震などというときの「地震」はこの意味で使われています。
  すなわち,図1.1に示すとおり, 「地震」という原因によって「地震」という結果が生じていることになり,いわば, 加害者と被害者が同姓同名というややこしい状況になっているわけです。 このため,震源で生じた自然現象の大きさを表す尺度である「マグニチュード」と, 各地における地面の揺れの大きさを表す尺度である「震度」との間に混同が生じるのは, ある意味で当然といえます。 上で用いた加害者・被害者のたとえで言えば,「マグニチュード」は加害者の狂暴度を示す量であり, 「震度」は被害者が受けた傷害の程度を表わす量であるということができます。

=== 図1.1 震度とマグニチュード(M) ===
震度とマグニチュード   また,「震度」と「マグニチュード」が混同されやすいのは, この「地震」という用語の曖昧さだけが原因ではありません。 上の新聞記事の例のように,「震度」と「マグニチュード」は,ともに単位をもたない単なる数値で表現され, しかもその値は0から7くらいの間のきわめて似通った範囲内にあります。 このため,両者の紛らわしさは,さらに拍車がかけられる結果となっています。
  これが台風の場合であれば,「マグニチュード」に相当するのは中心気圧, たとえば985hPa(ヘクトパスカル)であり,「震度」に相当するのは各地における風速, たとえば25m/sといった具合です。この場合は,両者の物理的意味,単位, 数値の範囲がいずれも明確に異なっているため,混同される恐れはまずありません。
  「マグニチュード」は,ある地震について唯一の値が定められ,たとえば, 「関東地震のマグニチュードは7.9である」といった表現がなされます。 これに対して「震度」の方は,地震を感じる場所によって値が大きく異なり, ひとつの地震に対していくつもの「震度」が存在します。 たとえば,関東地震時の東京における震度は6,宇都宮における震度は4という風に, 必ず場所を添えた表現がなされます。
  地震の大きさというと,理学系の人達は「マグニチュード」を思い浮かべ, 工学系や社会一般の人達は「震度」を思い浮かべるようです.

1.1 震度

  自分のいる所がどれくらい揺れたかを示す尺度が「震度」です. 震度の決め方は各国により異なり, 欧米では1〜12の階級をもつ「改正メルカリ震度階(MM震度階)」が多く用いられています.
  我が国では,1908年,当時の中央気象台により震度0(無感)から(烈震)までの7段階からなる 「気象庁震度階」が定められました. これは,人間の体感や室内の様子,周囲の状況などの観察結果に基づいて測候所の職員が総合判断して決定する, きわめて人間的な尺度でした.その後,1948年福井地震に際して生じた被害の甚大さから, 家屋の倒壊が30%以上に及ぶことを基準とする震度(激震)がつけ加えられましたが, 基本的にはこのように人間が判断して震度を決めるという方式が,つい最近まで続けられてきました。

  しかし,このような震度の決め方には,
   /祐屬亮膣僂入る
  ◆/姪戮侶萃蠅忙間がかかる
   震度報告の地点数が限定される
という問題がありました. とくに△砲弔い討蓮た姪扠擦我が国で初めて適用された1995年兵庫県南部地震の際に, その発表が遅かったとして社会問題にまでなりました. その定義上,震度擦浪伐阿療櫺状況の調査を終えないと認定できないため, 発表の遅れはやむを得ない面があったのですが,緊急時の防災対策に役立たないとの批判が強く出されました.
  また,については,基本的に測候所職員の手によって震度報告がなされていたため, たとえば東京の隣りは網代(静岡県),熊谷(埼玉県),銚子(千葉県)といった場所でしか, 公式な震度は発表されていませんでした.震度は地盤による影響が大きく, わずかな距離を隔てた2地点でも揺れ方が大きく異なることがあります. また,ごく浅い場所で小さな地震が発生した場合などは, その直上付近でごく局所的に大きな揺れがあったとしても,ある程度離れた測候所では揺れを感じず, 無感地震とされる場合も多くありました.いずれにせよ,測候所の分布に頼っている限り, きめの細かい震度分布を直ちに知ることは不可能だったわけです.

  以上のような問題点を解決するため,1995年兵庫県南部地震の翌年,我が国における震度の決め方は, それまでの人間中心の方式から計器による自動決定の方式へと,大きく改められました. また,この変更にあわせて,震度5と震度6はそれぞれ弱と強とに2分するようになり, 全体としては10段階の区分が採用されるようになりました.
  このような方針変更の背景には世の技術革新の流れもあり, 地震計とマイクロコンピュータを組み合わせて即時に「計測震度」を計算し, 通信回線によってその情報を直ちに集約できる時代になっていたわけです. この結果,震度決定におけるー膣囘要因の排除, ⊃彗性の確保,9睫度化への対応,といったことが可能になりました.

=== 表1.1 気象庁震度階級関連解説表 ===
気象庁震度階級関連解説表
 「計測震度」は,加速度地震計で検出された地面の振動波形にある複雑な処理を施すことによって連続量として出力されますが,その結果は表1.1に示すような区分によって震度0から7までの階級に振り分けられ,世の中に発表されています. 表1.1は「震度階級関連解説表」と呼ばれ,計測震度がある値となった際には概ねどのような現象が周囲で生じるかを説明しています. かつては,このような現象から人間が判断して震度を決めていたのですが,現在ではその関係が逆転していることになります.



=== 表1.2 我が国における1997〜2016年の20年間における最大震度の報告回数(気象庁震度データベースによる) ===
最近20年間における最大震度の報告回数
 表1.2は,このような計測震度が導入されたのちの20年間(1997〜2016年)における,地震時の最大震度の報告数を,気象庁ウェブページの震度データベースに基づいてまとめたものです.
2000年は3月末の有珠山噴火に始まり,7〜8月の三宅島噴火および伊豆諸島の群発地震,さらに10月の鳥取県西部 地震と大事件が続いたため,異常なほど有感地震が増えています. また,2004年は新潟県中越地震とその余震により大きな震度が何回も観測され,阪神淡路大震災以降初めてとなる震度7が記録されました. さらに2011年には我が国の観測史上最大となるM9.0の東北地方太平洋沖地震が発生して再び震度7が記録されたほか,2016年には熊本地震で震度7が2回観測され,それぞれ激しい余震活動によって大きな震度が数多く観測されました.
 この20年間を平均すると,我が国で震度6弱以上が観測される回数は年に2〜3回,震度5弱以上が観測される回数は年に15回(月に1回)程度,震度4以上が記録される回数は年に85回(月に7回)程度,震度3以上が記録される回数は年に340回(毎日1回)程度,また,震度1以上の全有感地震は,年に3,300回(毎日9回)程度発生しているということになります.

 ところで,昔は体感や周囲の現象から人間が判断して震度を決めていたのが,現在では計測震度計という機械によって震度が決定されるようになったため,いくつかの注意も必要です.
 まず,計測震度はあくまで1点に置かれた地震計の機械的な動きだけで決められるため,従来のように人間が周囲を観察して総合的に判断していたのと異なり,計器の設置された場所のきわめて局地的な条件によって震度の値が左右される危険性があります. 計器の不具合や周辺での工事などによって,とんでもない震度の値が出ることもあります.

 また,震度の観測点数が,昔は気象官署の数(約160ヶ所)くらいだったのが,今は全国の数千ヶ所に計測震度計が配置されるような状況になっています. 計測震度の算定式を定めるにあたって,当然のことながら,同一の地点では昔の「震度」と新しい「計測震度」はほぼ同じ値になるように配慮しているわけですが,この圧倒的な観測密度の増大は,新たな混乱を産んでいるように見えます.
 たとえば,一般の人はテレビなどで従来よりも頻繁に震度報告を目にするようになり, 「阪神・淡路大震災以降,地震が増えたような感じがする」といった声を聞きます. しかし,これは地震が増えたわけではなく,震度の報告が増えただけです.

=== 図1.2 1964年新潟地震(左)と1934年南伊豆地震(右)の震度分布 ===
1964年新潟地震と1934年南伊豆地震の震度分布
 震度報告点数の増大により,たとえば昔の震度6の地震と最近の震度6の地震とでは,意味合いが異なる事態が生じています.以下に,実例で示しましょう.

 図1.2は,左が1964年新潟地震(M7.5),右が1934年南伊豆地震(M5.5)の時の震度分布を示しています. 当然のことながら,新潟地震のような大地震では広い範囲で大きな揺れになるのに対し,南伊豆地震のような中程度の地震では有感の地域が局地的な範囲にとどまります.



=== 図1.3 大地震(左),中地震(右上),小地震(右下)による震度分布のイメージ ===
大地震,中地震,小地震による震度分布のイメージ
 この違いを実感するため,図1.3では,同じ距離スケールでこの2つの震度分布イメージを比較しています. 同図右下には,ついでに,M3程度の浅い小地震が4つ起きた場合の震度分布も示しました.
 大地震では震度5や4の地域が数100kmの範囲に広がっているのに対して,中地震で大きく揺れる地域はごく狭い範囲に限定されています. また,小地震では,震度1の領域が散発的に局在しているという設定になっています.



=== 図1.4 震度観測点の分布.星印は気象官署,小丸印は計測震度計の一部を示す.===
震度観測点の分布
 一方,図1.4には,近畿地方を中心とする範囲を例にとり,震度観測の行われている地点の分布を示しました. 星印は気象官署の位置であり,昔はこのくらいの密度で震度報告がなされていました. 小さな丸印は最近の計測震度計の分布です. 一部の領域にしか点が打ってありませんが,このくらいの密度で全国が覆われていると想像してください.

 図1.3図1.4とは同じスケールで描かれていますので,両者を重ねることにより色々の思考実験ができます.
 まず,昔の星印だけの状態を考えてみましょう. 大地震の震度分布に重ねてみると,震度5は間違いなく複数の点で記録され,震度6もかなり高い確率でつかまるでしょう. ところが中地震の場合では,気象官署の1点がたまたま震度4や震度5の狭い領域に位置していた場合を除き,報告される震度の最大は3か2にとどまります. 運が悪い場合には震度1としか記録されないかもしれません. 4つの小地震のケースでは,このうち1つか2つが震度1として検出されるかもしれませんが, 最悪の場合は全部が無感地震として処理されます.

 次に,現在のように密な計測震度点がある場合はどうでしょうか. 大地震の場合は,かなり忠実に震度分布の広がりを把握できます. 中地震の場合も,震度4はまず間違いなく検出でき,震度5もかなり高い確率でつかまるでしょう. しかし,ほんの局部的な震度6は漏れる可能性があります. ただ最近は,ちょっとした地震があると,すぐに気象庁の機動班が震源域の真上に計測震度計を持ちこみ,震度を測るようになりました. 最高震度は逃がさないようになったわけですが,震度報告の数はやたらと増える結果になっています.
 小地震のケースでは,図1.3に例示した程度の震度1の範囲があれば,4つともキャッチできるでしょう. しかし,震度1の範囲がもっと狭まれば,検出から漏れることもあります. まことに,震度の観測は“きりがない”面があります.

 以上のような状況変化をわきまえれば,昔と今とで,最高震度だけによって地震の大きさを比較することは問題であることがわかると思います. 昔は震度6といえば間違いなく大地震(マグニチュードの意味で)だったのですが,最近はごく浅い小地震の場合でも震度5や震度6が報告されやすくなっています (この場合,すぐ隣りの点は震度3や震度4どまりのことが多い). これらを同じ「震度6の大地震」として同列に扱うことは,適当ではありません.



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